【バイタルエリアの仕事人】vol.20 千葉和彦|大事なのはいかに味方に“時間とスペース”を提供するか。オランダでの経験が活きている
今年の選手たちの成長を感じている
攻守の重要局面となる「バイタルエリア」で輝く選手たちのサッカー観に迫る連載インタビューシリーズ「バイタルエリアの仕事人」。第20回は、アルビレックス新潟のDF千葉和彦だ。
2005年の夏に新潟でプロキャリアをスタート。その後、2012年に加入したサンフレッチェ広島では、移籍初年度からCBの主力として最終ラインを支え、チームのJ1初制覇に大きく貢献。2018年までプレーした後に、名古屋グランパスを経て昨シーズン、古巣に復帰し、現在に至る。
新潟に復帰して2年目。松橋力蔵新監督のもと、新たなスタートを切ったクラブの現状をチーム最年長37歳のDFはどう見ているのか。
――◆――◆――
昨年は、いまFC東京で監督をしているアルベル監督が就任して2年目でした。新潟はこういうサッカーを目ざすんだというメッセージに感銘を受けたのを覚えています。新潟のサッカーに自分のスタイルが合うと思ったので、帰ってきました。
これまでの新潟は、どちらかというと、しっかり守って攻撃に出るカウンターサッカーのイメージがありました。アルベル監督になってからは、自分たちがボールを握りながら攻めるマインドにシフトしていった。今は新潟のサポーターも、それを楽しみに毎回スタジアムやDAZNで見てくれていると思う。ボールを保持するサッカーをチームに根付かせたいという気持ちもあって新潟での挑戦を決めたんです。
今季、就任した松橋(力蔵)監督も、攻撃が好きな指揮官で、選手の気持ちを分かってくれているので、充実感がありますね。練習やミーティングでも、目の付け所が細かい。監督の指導のおかげで今年の選手たちが成長しているのは、僕も感じていますし、選手たち自身も感じていると思います。
練習の質も高いですが、やっぱり選手は試合で自信を得ると思うんです。今季は、ほぼどの選手が出ても活躍しているという部分が新潟の強み。試合でも選手が成長しているのを感じていて、それが自信となって結果に表われています。
もちろん、まだまだチームに足りない部分はあって、監督が「目ざすべきものはもっと上にある」といつも言っているように、現状に満足せず、もっと完成度を上げていきたいですね。
川崎のような相手にも戦えるチームになっていかないといけない
松橋監督が志向する、ポゼッションサッカー。「サポーターも楽しんでくれているはず」と現在のスタイルに手応えを示す千葉は、バイタルエリアを有効に使って相手を崩し切るため、最終ラインからどう攻撃をサポートしていこうと考えているのか。
――◆――◆――
ポゼッションサッカーというのは、どうしてもボールを握っているだけで満足してしまいがちになる。せっかくピッチの3分の2まで前進したのに、取られそうになったから、GKまで下げてしまうのでは意味がないんです。
その不安が今の新潟にはない。センターラインをボールが越えた時に、周囲の選手が前に走り出すタイミングなどの共通理解は、今シーズン、手応えを感じています。
チームの攻撃をサポートするためにセンターバックとして自分が大事にしているのは、いかに味方に時間とスペースを提供するかという部分です。
最終ラインで繋いでいる時に、自分の前にスペースを見つけたら、積極的にドリブルで運んで、相手を引き付けてからパスを供給する。それによって、相手の陣形が崩れて、バイタルエリアにも有効なスペースが生まれるし、敵陣でボールを持てる時間も増える。どう時間とスペースの“貯金”を作って、前の選手に効果的なボールを供給できるかを考えながらプレーしています。
なかでも、フロンターレは、特にバイタルエリアを使うのが上手いなと思います。最後の崩しや、3人目の連係などのレベルが非常に高い。もし対戦するなら、家長(昭博)選手が体調不良で試合に出ないのを願いますね(笑)。
それは冗談で、今年の新潟は攻撃で特長のあるチームなので、川崎のような相手にもしっかり攻撃で自分たちの良さを発揮し、戦えるチームになっていかないといけないですよね。
オランダでの経験がなければ、今の自分はいない
新潟ではCBとして、守備だけではなく、攻撃面のタスクも多く求められると語った千葉。ビルドアップ時には、いかに前のスペースにボールを運び、相手を引き付けられるかが重要だと言う。
そんな千葉は、Jリーグでのプロ入り前の2004年、高校卒業後に当時オランダ2部リーグに所属していたAGOVVアペルドールンとアマチュア契約を結び、1シーズンプレーした。攻撃にDFが効果的に関わる重要性を学んだのは、欧州での経験からだった。
――◆――◆――
自分はディフェンダーですけど、攻撃にどう関わっていくかを常に考えています。僕たちのリズムじゃない試合も絶対にあるので、その時にいかに勝ち切るか、勝点1を勝点3に持っていくか。自分には多少なりとも経験があるので、そういった部分を、チームメイトにも伝えています。
攻撃に対する意識を学んだのは、オランダでの経験が大きいです。当時、高校を卒業した時点ではJクラブからの誘いがなく、焦っていました。大学進学の選択肢もあったんですが、高校時代は厳しい環境でサッカーに打ち込んでいたこともあって、高校と大学のギャップ、大学の空気感に流されてしまうのではないかという不安がありました。
そこで、最短でプロになれる道を模索した時に、海外という選択肢があったので、迷わず選びました。
オランダでのポジションは、ボランチでした。ゴールに向かうイメージを常に持ちながらやっていたので、そこで中盤の選手の気持ちを学びましたし、あの経験がなければ、今の自分はいないかなと思っています。
オランダのクラブは当時、ポジショナルなサッカーをしていて、4-3-3のシステムで、人が動くのではなくて、ボールを動かす感覚でやっていました。日本でずっと育ってきた自分にとっては、各選手が自分のポジションから必要以上に動かない、というスタイルが新鮮でした。
ボランチをやっていたこともあって、19歳、20歳で得られた欧州での経験が、今の攻撃の考え方に活きています。オランダでキャリアを始められたのは、僕にとって本当にラッキーでしたね。
負傷離脱中はみんなのストロングを引き出したいと思った
攻守の重要局面となる「バイタルエリア」で輝く選手たちのサッカー観に迫る連載インタビューシリーズ「バイタルエリアの仕事人」。第20回は、昨シーズン、10年ぶりにアルビレックス新潟に復帰したDF千葉和彦だ。
前編では、松橋力蔵新監督の印象や、ポゼッションサッカーを志向するチームでの攻撃への関わり方、チームメイトの成長などを語ってもらった。後編では、CBを本職とする千葉の守備に対する思考や流儀、J1昇格への想いなどを深く掘り下げていく。
まずは、今季の負傷離脱について。千葉は7月2日の第24節・群馬戦後に腰の痛みを訴え、チームを離脱。その後、約1か月以上にわたって試合に出られない時期が続いたなかで、どうチームをサポートしていたのか。
――◆――◆――
ほぼ初めてギックリ腰になって、これが噂のやつかと思いました(笑)。ただ、やってしまったものはしょうがないし、自分が戦列に戻った時に、何をチームに還元できるかを考えながらリハビリをして、試合を見ていた生活だったので、そこまで気落ちすることはなかったです。約1か月くらいサッカーができない時期はありましたけど、そこまで落ち込まなかったですね。
自分が離脱中、チームはなかなか試合に勝ち切れない状況が続きました。相手チームがしっかりと対策をしてきている印象が強く、自分たちの得意な部分を消されてしまっていた。うまくディフェンスラインの乱れを突いてくるとか、徹底的に研究されたことで苦戦しました。
そんな状況で、離脱中の自分がチームに対して何をできるかと考えた時に、みんなのストロングを引き出したいと思ったんです。チームのムードメーカーだと言われることがあって、自分自身ではそんなことを思っていないんですけど、選手たちにプレッシャーもかかるなかで、いかにリラックスした雰囲気を作って、チームメイトに本来の力を出してもらうかを考えていましたね。
自分が最年長だからやらなきゃいけない、という意識はないんですが、それぞれの選手たちが力を最大限に発揮できるようなアプローチをピッチ外でもできればなと思っています。
守備で重要なのは相手に不得意なほうの足で持たせること
試合前には相手選手の利き足まで分析。「不得意なほうの足で持たせて、少しでもゴールの可能性を下げる」守備のこだわりを語ってくれた。写真:塚本凜平(サッカーダイジェスト写真部)
チームの“雰囲気作り”を大事にしているという千葉だが、プレー面ではどんなことを心掛けているのか。今季、J2で徳島の28失点に続く2番目に少ない失点数32(第38節終了時点)を誇る新潟のCBとしての守備の極意とは?
――◆――◆――
相手にバイタルエリアに入られてしまうと、上手い選手だとシュートもありますし、スルーパスなど、ゴールに直結する選択肢が増えてしまうので、非常に厄介なエリアだと思っています。
危険なスペースを使わせないためには、ディフェンスラインの選手だけだと対応しきれないので、中盤の選手と連係して、どうそのスペースを圧縮するか。また、最終ラインの位置を少しでも上げる意識があります。
相手にボールを持たれる展開では、自分が前に出すぎてしまうと、逆にセンターバックの裏のスペースを使われてしまう可能性がある。そこにスルーパスや浮き球のパスが入ってしまうと、スムーズにゴールを奪われてしまうので、いかに周囲の味方を動かして、裏のスペースを空けさせずに、相手を外に外に追い出すかを考えています。
1対1のシチュエーションでは、僕は身体能力に長けている選手ではないと思っているので、バチっと1人でボールを取りにいく守備はあまりしません。パスコースを限定したり、1対1の状況でも相手に時間をかけさせることによって、味方の戻りを待ってから、より安心な状況で奪いにいきます。
ただ、ときにはスライディングでボールを奪いにいったり、身体を張った守備をしなければならないシーンもある。その時には、試合前に分析した相手の利き足の情報をもとに、追い込む方向を考えながら、距離を詰めて仕留めにいくようにしています。
例えば、左利きの選手なら、右足ではなかなかスーパーなシュートを打つのは難しいと思うんです。緊迫した状況では、とくに。なので、対峙した選手にはできる限り、不得意なほうの足で持たせて、少しでもゴールの可能性を下げる作業を心掛けています。
守備で参考にしているのは、同年代の選手でセルヒオ・ラモス(パリ・サンジェルマン)や、チアゴ・シウバ(チェルシー)です。周囲の味方の使い方、賢く守備をする部分は参考になるので、見て勉強するようにしていますね。
もちろん目ざすべきところはJ1昇格。でも目の前のことしか考えていない
現在、チームは、リーグでは38節終了時点で首位。直近10試合の戦績は7勝2分1敗で、4連勝中と波に乗っている。今季は残り4試合。2017年に降格を味わって以来、6年ぶりとなるJ1復帰に邁進中だ。
CBの主力としてチームを支える千葉に、サポーターに対する想いやJ1昇格にかける想いを訊いた。
――◆――◆――
今季は、悔しかった試合のほうが多かった。そのなかで一番は、開幕前のプレシーズンで負けたセレッソ大阪との練習試合。ボコボコにされて、めちゃくちゃ悔しかったのを覚えています。
J1クラブとこんな違うのかと。自分たちは、コロナの関係で練習の期間が短かったり、コンディションが整わなかった部分もあるんですけど、それを差し引いても、自分のなかでは差を感じた。
そういった悔しい気持ちが活力となって、現在の順位につながっていると感じています。もちろん目ざすべきところはJ1昇格。でも自分は次の試合でどれだけ良いパフォーマンスを出せるか。それがチームのプラスとなって、1試合1試合、勝利を積み上げられるかどうか、目の前のことしか考えていないです。
新潟はプロにしてもらったチームですし、初めて自分についてくれたサポーターは新潟の方々なので、その人たちへの恩返しの意味でも、チームをJ1の舞台に戻して、トップリーグで戦っている姿を見せたい。そして、自分たちから主導権を握って、アクションを起こす今のスタイルのサッカーを誇りに思ってほしいし、これが新潟のサッカーだと胸を張って言えるサポーターにしてあげたいと思っています。
とにかく、自分の良さを出して、「今日は貢献できたな」という試合をどれだけ多くできるか。その積み重ねの末に、J1昇格を掴めれば嬉しいですね。
●サッカーダイジェスト
コメント