【新潟】鈴木孝司の優しさが決勝点を生んだ。欲望も献身も手懐けて「本当に自然にやったプレーでした」
アルビレックス新潟が明治安田生命J2リーグ最終節となる10月23日の第42節で、FC町田ゼルビアから2-1の勝利を奪った。三戸舜介がチップキックで流し込んだ決勝点が話題になったが、そのゴールを導いたのが、鈴木孝司の優しさだった。
「周りがちゃんと見えていて」
その瞬間、ターンして前を向いた三戸舜介の視野の中心に立った鈴木孝司は、縦パスを預かり、優しくボールに触れてからすかさずリターンパスを前に送り出して、三戸を裏抜けさせた。そしてチップキックでゴール!
アルビレックス新潟のJ2最終節となった、10月23日のFC町田ゼルビア戦、鈴木の「優しさ」が83分の決勝点を生んだ。
「僕が入ってからチャンスもできていたし、最後のフィニッシュのところで自分がもう少し中にいられるようにしたいと思いますけど、今日はチームが勝つことが大事だったのでよかったです」
この言葉に、鈴木孝司が鈴木孝司である理由が詰まっている。
まずは「チャンス」について。1-1で迎えた57分に鈴木と小見洋太が入ってから、その言葉のとおりに攻撃にリズムが生まれて好機がたくさん生まれた。決勝ゴールのシーンが典型的だが、その前の77分もその一つ。左サイドでボールを持った堀米悠斗が、相手の体が外に向いた瞬間に背中側にボールを滑り込ませ、小見が抜け出してマイナスに折り返すと、鈴木がシュート、と見せかけてスルーして相手の目をそらせて、逆から入ってきた三戸のシュートを導いた。DFのブロックにあうのだが、少なくとも4人が有機的に絡む今年の新潟らしい崩しだった。
「周りがちゃんと見えていて、パスがちょっとマイナスだったり、相手が食いついているのもあったし、後ろの声もあったりと、いろいろな条件が重なりました。自分の欲が、とか、チームを勝たせたい、とか、そういうことを思っていなくて、本当に自然にやったプレーでした」
自然体、こそ、鈴木の最大の魅力だろう。いつもいい意味で肩の力を抜いているから、決勝点のアシストのシーンも余計な力の入らないパスを三戸に送り届けることができた。
「ボールのメッセージやスピード、角度によって自分の中で判断しているので、打てるときには打ちたかったし、あのシーン(77分)ももう少し前にボールがあれば、スルーではなくシュートの選択もあったかもしれません」
だから、最初の言葉にある「フィニッシュ」については、もっと自分が中にいれば打ち切れる数が増える、という思いも出てくるのだ。そんなストライカーとしての欲望と、チームの勝利への渇望を両方とも上手に手懐けるのは、ベテランの妙味。それが、最初の言葉の3つ目のエッセンスとなる「勝利」である。
「2-1にしましたけど、確実に勝つところまではいっていなかったですし、チーム全体で戦っているので、攻撃だけしていればいい選手もいないし、守備だけしていればいい選手もいません。チームが勝つためにやりました」
シンプルな表現だが、この1年の新潟を確かに言い当てる一言である。
「1試合1試合、チームとしても選手個人個人でも成長しているので、今日はより勝つという気持ちがチーム全体で一体感として出て、引き分けではなくて勝ってサポーターのみんなと優勝を喜ぼうという気持ちが出たので、点が取れたと思います」
鈴木自身は負傷も重なって、全42試合のちょうど半分となる21試合の出場に留まった。得点は昨年に1点及ばず合計8ゴール。だが、「僕が入ってからチャンスもできていた」というのは、この町田戦に限ったことではない。
シーズンを通して、前線で浮遊しながらポストプレーで全体のスピードアップのスイッチを入れた。そうかと思えば、相手の視野に隠れながらゴール前に姿を現す神出鬼没な動きを見せた。そうして、自らのシュートで狙うのはもちろん、自分がおとりになって味方にチャンスを与えていった。
J1でのプレーは、セレッソ大阪に所属していた2020年以来となる。このときは、2年で1ゴールと悔しさを残した。それを、成長した姿で晴らす旅が始まる。
●サッカーマガジンWeb編集部
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