アルビレックス新潟、指揮官の交代に不安視もJ1昇格への期待が薄れないわけ
今季のアルビレックス新潟を占ううえで、注目されたのは指揮官の交代だったに違いない。
2018年にJ2降格となって以降、新潟の順位は16、10、11位。3シーズン連続でふた桁順位が続き、J1昇格どころか、J2ですら低迷していた新潟にあって、潮目が変わったのは、昨季のことだった。
開幕から13戦無敗(10勝3分け)とスタートダッシュに成功した新潟は、シーズン中盤まで首位を快走。最終的には6位に終わりはしたが、J1昇格への期待高まるシーズンを過ごした。
そんな新潟の変化において、見逃せない役割を果たしていたのが、2020年から指揮を執ったアルベル・プッチ・オルトネダ監督である(当時の登録名は、アルベルではなく、アルベルト)。
スペインの名門、バルセロナでスカウトやダイレクターを歴任した知将は、低迷が続くチームに徹底してボールを保持し、試合を支配するスタイルを導入。1年目こそ結果につながらず、むしろ前季よりも順位を落とすことにはなったが、2年目の昨季は大きな飛躍を見せた。
アルベル体制3年目の2022年こそ、J1復帰のシーズンに――。その期待は、確実に高まっていたはずだった。
ところが、当のアルベル監督は「新潟で続投し、チームの完成度を高めるのもひとつの選択肢だったが、私は新しいものにチャレンジし、新しいものを構築することに興味があった」。
J1昇格への布石を打ったスペイン人監督は、新潟での目標を達成することなく、FC東京に新天地を求めたのである。
代わって今季から新潟の指揮を執ることになったのは、松橋力蔵監督である。
松橋監督は、2017年から横浜F・マリノスで4年間コーチを務め、その間にアンジェ・ポステコグルー監督とともに、徹底したポゼッションスタイルを確立。2019年にはJ1制覇も成し遂げている。
そして、2021年に新潟へ”移籍”。アルベル監督の下でもコーチを経験した松橋監督は、新潟が目指すスタイルを継続していくには、うってつけの人材だったと言えるだろう。
しかしながら、松橋監督がJクラブのトップチームで監督に就任するのは、これが初めて。横浜FMユースでの監督経験こそあるものの、そこに少なからず不安があったのも確かだろう。
前監督が2年間かけてようやく芽吹いてきたスタイルを、新監督がどう結果につなげるのか。
その点において、期待あり、不安ありの今季の船出だったはずだが、実際にシーズンが始まってみると、新潟は順調な航海を続けている。
パスをつなぎ倒して相手をねじ伏せる迫力は、昨季に比べて衰えるどころか、むしろ増している印象すら受けるほどだ。
現在、首位との勝ち点3差の3位(第16節終了時点)は、J1参入プレーオフ圏内であることはもちろん、J1自動昇格となる2位以内も十分に狙える位置だ。
J1昇格の使命を託された、松橋監督が語る。 「(アルベル監督が目指したスタイルである)ポジショナルプレーというものの考え方は、おそらく我々が考えているものとは明らかに違う。僕はコーチで長くやっていたのである程度理解できるが、選手個々にとっては目新しかった。そういう新しいものを、アルベルは徹底して作ったと思う」
昨今のサッカー界で話題となっているポジショナルプレー。ざっくりと言ってしまえば、ピッチ上で常に優位性を作ろうという発想であり、ボールを保持し続け、失ってもすぐに奪い返すことを実現しようとするわけだが、「僕が(新潟に)来たのが(アルベル監督の)2シーズン目だったが、その時点でそういう部分は身についているというか、身にしみているというか。考えて何かをするというよりも、反射的に、というものは、ある程度選手のなかには作り上げられていた部分がある」(松橋監督)という。
とはいえ、前任者から引き継いだものをただ続けるだけでは、いずれ強化は頭打ちになる。継続すべきところは続け、変化させるべきところは変える。後任者には、そんな決断が求められることもあるだろう。
松橋監督も、「もちろん、僕が監督を務めるスタート(の段階)で、そこはある程度着手していた部分がある」と言い、こう続ける。 「どうしてもボールを下げてでも保持することが第一選択肢になるなかで、でもゴールは前にある。そこで、いかにボールを前に進めていくかということは、今年のスタートからずっとやっている。(ボールを)前に動かすことができることによって、アルベルが植えつけたプレースタイルというものもさらに生かせると思うし、アルベルの考えがさらにいい形で表現できることによって、私が考えるものもさらにいい方向へ進むと思ってやっている」
松橋監督の意図は、前任者にも伝わっているのだろう。現在はFC東京で新たな挑戦の真っ最中にあるアルベル監督もまた、こんな言葉で新潟の現状を評価している。
「(FC東京の)今季最初の10試合ちょっとは、ゴールにより直線的に向かうプレーが多かったが、チームはそれをやりつつ、段階を追ってプレースタイルの変化に適応して成長している。成長プロセスにおいては、負けることがあるのも当然。新潟でも1年目は苦しむ試合が多かった。しかし、2年目は順調に進んだ。私が去った今年も、新潟は順調にいいプレーをし続け、首位争いをしている」
もちろん、全42試合を戦う長いシーズンにおいては、この先、何が起こるかわからない。
だが、すでにシーズン全体の3分の1強を終えた現段階で言うならば、新潟が目指す理想のスタイルは監督交代を経てもなお、うまく継続されているのだろう。
何よりピッチ上で軽快にボールを動かし続ける選手たちが、その事実を示している。
●Sportiva
コメント