「全員戦力」で成し遂げたJ2優勝。揺るぎない土台を築いた新潟の“追求と進化”は続いていく
2020年、ポジショナルプレーへの転換を決断
アルビレックス新潟がJ2優勝を決めた。
10月15日の第41節で東京ヴェルディと敵地で対戦し、0-1で敗れたものの、翌日に2位横浜FCがツエーゲン金沢に敗戦。この結果、最終節を残して横浜FCとの勝点差は「4」のままで、この時点で新潟の優勝が確定した。
すでに前節で6年ぶりのJ1復帰を果たしているオレンジ軍団が、悲願を叶えるまでの軌跡をたどる。
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10月8日、超満員のデンカビッグスワンスタジアムが歓喜に満ち溢れた。40節のベガルタ仙台戦に3-0で勝利し、J1昇格が決まったのだ。そこまでの歩みも見事で、17節以降、一度も自動昇格圏から外れることなく、安定した戦いぶりを続けた。
ボール支配率はリーグで最も高い60.0%(Jスタッツより)。得点数はリーグ最多の71で、失点数はリーグで2番目に少ない34。得失点差+37は、3位のファジアーノ岡山の+21をはるかに上回っている。敵陣で主導権を握り、立ち位置で相手を惑わせ、選手個々の持ち味が交ざり合って生まれる多彩な攻撃でJ2を席巻した(編集部・注/データはいずれも41節終了時)。
堅守速攻から、ポジショナルプレーへ。クラブが現在のスタイルへの転換を決断したのは、J2での3シーズン目を迎えた2020年のことだ。J1を戦っていた16年から4年連続でシーズン途中の監督交代が行なわれ、積み上げができない状況が続いていた。
また経営面でも、若手育成への注力がクラブを存続させるうえで重要であると考え、バルセロナの育成部門で長く要職を務めた経験を持つアルベル氏(現・FC東京監督)を監督に迎えた。
育成に長ける指揮官のもと、プロ2年目の本間至恩はプレーの幅を広げて7ゴール・7アシストとブレイク。また、ボールを握り、味方同士がコンパクトな距離で敵陣に攻め込むスタイルは対戦相手を困らせ、サポーターを楽しませた。
だが、この年はコロナ禍による約4か月のリーグ中断の影響で終盤が異例の連戦となり怪我人が続出。最後の4戦を全敗し、11位でシーズンを終えた。
決して満足な結果ではなかったが、どんな時でもスタイルを貫き続けた監督のもとで、チームは確実に成長を遂げた。毎日の練習で繰り返されるロンドは、1年後には速度・精度ともに劇的に上達していた。
その様子を見た寺川能人強化部長は「毎日同じことを続けると、こんなにも上手くなるんだ」と継続の効果を実感。また、新卒選手を「新潟のサッカーがやりたいから」との理由で獲得できたことも踏まえ、この方向性で進むことへの手応えを確信。アルベル監督の続投を決意した。
アルベル体制2年目の昨季は、主力の流出を抑えたなかで、新潟のスタイルに合う選手を獲得した。重視したのは“適応力”。Jでのプレー経験がある選手などに的を絞って獲得候補を探した結果、外国籍選手の補強は行なわず、日本人選手9名を迎えてスタートした。
すると、これが奏功。選手間の意思疎通がスムーズになり、新加入選手もキャンプの間に苦労なくフィットした。なかでも相手のプレスをかわしながらハーフラインまで運べる千葉和彦の加入でビルドアップがより円滑に。
前線の選手がパスを受けに降りる必要がなくなり、フィニッシュに専念できるようになった。良い準備は即座に効果を発揮し、開幕から5連勝、13試合負けなしで首位を独走。“アルベル新潟”は一躍注目を浴びた。
クラブの誰もが目の前の一戦に全力で備える

ただ、ぶれないスタイルゆえにシーズンが進むと分析され、ポジショナルプレーを封じられる試合も増えた。13節の松本山雅FC戦(0-0)で本間へのマンマークと5レーンを埋めるブロックで対策されて無得点に終わると、続く14節で対戦したFC町田ゼルビアも松本の戦い方を応用してきた。
先制できれば前がかりになった相手の背後を突いて得点を重ねられていたが、割り切ってブロックを敷き、スペースを消してくる相手には苦戦。18節以降は自動昇格圏から外れ、本間を怪我で欠いたラスト10試合は2勝5分3敗と失速し、6位に終わった。
「相手はやりたいサッカーではなく、新潟にやらせないサッカーをしてきた。でも僕らは自分たちのサッカーにプライドを持って貫いた。ポゼッションサッカーといえば、J2では新潟だと言われるチームになった」
10ゴール・14アシストと攻撃を牽引した高木善朗は、確かな手応えを感じていた。この年、平均ボール支配率は61.4%で、20年のリーグ5位(55.7%)から1位へと躍り出た。この手腕が評価され、指揮官はJ1のFC東京へステップアップ。21年から新潟へ加入した松橋力蔵コーチが、アルベル監督の哲学を受け継ぎ、新監督に就任した。
松橋新監督は「J1を目ざすのであれば、勝利をもっと貪欲に求めなければいけない」と、21年12月の就任会見で断言。
アルベル監督が2年間で築き上げた土台を活かしつつ、「よりゴール方向に向かうプレーを増やす」推進力と、「相手の隙を逃さずに突く」プレーを求め、イッペイ・シノヅカ、伊藤涼太郎、松田詠太郎ら技術とスピードを兼ね備えたタレントを加えてスタートした。
キャンプでのコロナ集団感染と、それに伴う10日間の活動休止によりフィジカル調整が遅れ、開幕後は5試合未勝利と躓いたが、身体的なコンディションが整うと結果もついてきた。攻撃はワンサイドでテンポ良く攻め切る形や、サイドで引きつけてから中央に展開して崩す形、また自陣に引き込んで相手のプレスを誘ってから、一気にスピードアップして背後を取る擬似カウンターと、ゴールまでのバリエーションが着々と増えていった。
今季はメンバーを固定しなくなったのも変化の1つだ。「全員戦力」という指揮官の見極めは的確で、今季初先発でプロ入り後、初得点を挙げた田上大地や小見洋太をはじめ、久々に起用された選手が結果を出した例は非常に多い。
交代出場も含め、それぞれが自身の武器を発揮する形で活躍することも多く、常に競争があった。クラブの誰もが目の前の一戦に全力で備えるからこそ、エース本間の海外移籍や、負傷・体調不良による選手離脱があったなかでも、着実に勝点を積み上げられたのだ。
こうして今季は相手のブロックを崩す術を増やし、対策もされづらくなった。的を絞らせない戦い方でここまで20人(40節終了時)がゴールを挙げている点も、その象徴と言える(20年の得点者は14人、21年は15人)。
松橋監督が選手と共有してきた目標は、J1で戦えるチームになること。コーチとして19 年に横浜で優勝経験を持つ指揮官は「基準を上げよう」「もっとできる」と選手に要求し続けてきた。J1昇格はあくまで通過点。新たなステージで結果を残すため、追求と進化は続いていく。
●サッカーダイジェスト
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