「新生」アルビレックス新潟が6年ぶりにJ1に帰ってくる。失速した昨季とは何が違ったのか
J2第40節アルビレックス新潟vsベガルタ仙台の試合は、新潟が2-0とリードし、後半のアディショナルタイムを迎えていた。
歓喜の瞬間は目前。とはいえ、勝てばJ1昇格が決まる新潟にとっては、そのわずか数分が、永遠にも感じる時間になったとしても不思議はない。
ところが、である。
新潟のキャプテン、DF堀米悠斗は「アディショナルタイム3分の表示が出てから短く感じた」と意外な言葉を口にし、満足げにこう続けた。
「ボールを握ってゲームをクローズし、スキがあれば得点を狙うことができた。アルベルト監督に要求され続けてきたことを、ここで発揮できたのがうれしかった。(試合終盤でも)簡単にボールを放棄することがなかったのが成長だと思う」
昨季、アルベルト監督(現FC東京監督。現在の登録名はアルベル)に率いられた新潟は、開幕から第13節まで10勝3分けのロケットスタートに成功しながら、シーズン後半に失速。最終的には6位に終わり、J1昇格を逃す結果に終わった。
しかし、アルベルト監督に代わり、新たに松橋力蔵監督が就任した今季は、開幕直後の4試合こそ1敗3分けと苦しんだものの、その後はじわじわと加速。徐々に勝ち星を増やして順位を上げると、第17節以降はJ1自動昇格圏(2位以上)からこぼれることがなかった。
はたして、2017年シーズン以来となるJ1復帰の大願成就である。
シーズンの進行とともに失速した昨季と、加速した今季。その違いを語る堀米の言葉は明解だった。
「練習量が増えて、試合終盤でもしっかり走れる選手が増えたことと、(選手起用の)ローテーションがすごくうまくいって、試合に出た選手がしっかりと与えられた時間、ポジションで結果を出せたこと。そのサイクルがすごくうまくいったなと思う」
そんな今季の強さを象徴的に示していたのが、仙台戦の後半アディショナルタイムで生まれた3点目のゴールである。
FWアレクサンドレ・ゲデスのドリブルに始まった速攻は、ゲデスからMF秋山裕紀、MF松田詠太郎へとパスがつながり、最後は松田のクロスをゲデスが決めて見事に完結。自陣でルーズボールを拾ったMF星雄次も含め、ゴールに絡んだ4選手すべてが、後半に途中出場した選手だった。
貴重なダメ押しのゴールを振り返り、「今季の積み上げのなかでの我々の強みが出せた」と喜んだ松橋監督は、継続の重要性についてこう話す。
「アルベルが築き上げたものは、我々のカラーを強調する土台であり、大事な部分。そこにつけ加えるものによって、さらによいものにしていくとり組みを今季してきた。それを少しずつ出せたのも大きかった」
終わってみれば3-0で勝利し、難なくJ1昇格を決めたように見える仙台戦にしても、相手は新潟自慢の攻撃を防ぐべく、まずは中央の守備を固める策を講じてきた。
仙台の伊藤彰監督曰く、「ボールを握られることは想定していたが、中央にクサビ(の縦パス)を入れられないようにすることと、入れられたところを抑える守備。それは自分たちが用意したものだった」。
いかに新潟が順調に勝ち点を積み重ねていたとしても、シーズンが進めば、対戦相手の新潟対策も当然進む。それに対抗できなったのが、昨季だったと言えるかもしれない。
しかし、今季の新潟は、それでも強かった。
仙台が築く守備ブロックの間に生じるわずかなスペースを見つけては縦パスを打ち込み、徐々にゴールへの道筋を切り開いていった。
「自分たちのやりたいサッカーを研究されているのもあるし、個人としても(トップ下の)僕のところでのターンに(相手選手が)2人でくるとか、(松田)詠太郎のところだったら(ドリブル突破に対して)縦をふさぐとか、そういったことをよくしてくる相手が増えてきた」
仙台戦で先制点を含む2ゴールを決めたMF伊藤涼太郎はそう話し、”新潟包囲網”の強化を認めながらも、堂々と言葉をつなぐ。
「でも、それを乗り越えてこそ、上のレベルでやれると思っているので。ちょっとふさがれたくらいで止められているようじゃあ、上にはいけない。それをもっともっと打開したいなと思う」
かつてJ2では、低い位置で守備を固めて失点を減らし、ワンチャンスにかけるような現実的なサッカーが幅を利かせた時代があった。
理想ばかりを追い求めても、J1へ昇格はできませんよ、とばかりに。
だが、近年は自らがボールを保持し、主体的にゲームを進めるスタイルで成果を手にするチームが増えてきた。今季の新潟もまた、その最たる例と言えるだろう。
しかも、新潟はスタイルチェンジにとり組んでから、実質3年でJ1昇格までたどりついたという点でも特筆に値する。
新潟らしいサッカーとは――。そんな問いに対し、伊藤が誇らしげに答える。
「しっかりと自分たちでボールを保持しながら、前に進んでいくということと、サイド攻撃や中央からの崩しといった、いろんなバリエーションの攻撃を自分たちがボールを保持しながら見せられるというところが、今の新潟のサッカーだなと思う」
2004年の初昇格から14シーズン、果敢な守備をベースに粘り強くJ1で戦っていた印象のある新潟だが、二度目の昇格となる今回は、おそらく前回とはまったく異なるインパクトを強烈に与えてくれるはずである。
新たなスタイルを身にまとい、新潟が6シーズンぶりのJ1に帰ってきた。
●Sportiva
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